AD/HDは注意欠如/多動性障害といいますが、この傾向を持つ子どもは他の子どもよりもことさらに日常生活で親や教諭などの周囲の大人、また同輩の子ども達からの肯定的な言葉かけがとても大切な意味を持っています。

AD/HDの子どもは診断名からも分かるように、何かに集中することや物事を順序立てて解決することが苦手です。また、衝動性の高さからお友達の話に急に割って入ったり、自分の話したいことがあると相手の気持ちを考えずに、延々と話してしまいがちです。

このことから、授業中、先生の話に長い時間、耳を傾けることができずについつい授業とは関係のない事を考えてしまったり、隣に座るお友達にちょっかいを出してしまったりします。また、日常的に忘れ物が多く時間の管理も苦手なので、先生からは「困った子」として白い目で見られがちです。また、お友達からは「ジコチュー」として距離を置かれることもあります。

つまり、AD/HDの子どもは周囲の人たちから怒られたり注意を受ける事が多く、その反面、人から褒められたり認めてもらう体験というのは相対的に低くなってしまいます。一度、「問題児」としてレッテルを張られると、たまに良いことをしても否定的な言動の方が目立ってしまうため、周りからなかなか良い評価を得ることはできません。

このように常に人から疎まれる経験ばかり積み重なると、子どもの心はどうなってしまうのでしょうか?

その結果が「自尊感情」の低下です。「自尊感情」が何かというと、「自分自身の事を肯定して受け入れることのできる力」です。分かりやすく言い換えると、「自分自身の事を好きでいられる力」のことです。この力の高いこどもは、日常生活でうまくいかない事や失敗があってもすぐに立ち直る事ができます。また、失敗を成長の糧としてうまく経験に取り入れる事ができます。ところが、この力が低い子どもは少しでも自分の思い通りにならない事があると、すぐに心が折れてしまいます。また、どうせうまくいかないとの思いから、最初から何かに挑戦することを避けるようになります。

そして、本人にとってもっとも苦しいことが自分の身の周りに起こる出来事を自分自身のせいであると責めてしまいまう事です。

近くでお友達同士で話をしているのをみかけると、「きっと僕の悪口をいってるんだ」とか先生からささいな注意を受けただけでも、「先生は僕なんかいなくなってしまえばいいと思ってるんだ」と物事を自分自身に引きつけ被害的に捉えるようになります。

これがAD/HDの「二次障害」と呼ばれるものです。AD/HDのみならず、直接、障害に由来する特徴によるものではなく、障害の持つ特徴が周囲の環境との間の摩擦によって引き起こされる、本人を苦しめてしまう状況のことを「二次障害」といいます。そして、不注意や衝動性のコントロールの失敗による、周囲からの負の評価の積み重ねが、本人の「自尊心」を傷つけ、被害的な認知に支配されるようになります。また、不注意や衝動性は本人の努力だけで解決できることではありません。また、どこかで詳しく話しますが、脳を流れる神経伝達物質というホルモンがこれらの症状にかかわっていると言われています。

この「二次障害」によって形づけられる否定的な認知は成長の各過程において、また大きくなって成人した以降においても仕事や対人関係において大きな影響を及ぼします。このことを防ぐためにも、子どものうちから周囲が子どもの特性を把握し、「二次障害」の発生を未然に防ぐためにもどのように子どもの「自尊感情」を守り、また伸ばしていくのかが大きな課題になります。それは常日頃の成功体験の積み重ねとどんなささいな事でもよいので「良くできたね」、「頑張ったね」と褒められる経験の蓄積です。      

(東京チャイルズ 森 博昭)